大阪高等裁判所 昭和34年(ネ)1391号 判決
先づ原審及び当審証人Aの証言の内容は、同人が三〇年来の知人である控訴人の依頼に応じ、自分の長男である被控訴人を貸主として、昭和三二年四月初頃と同年六月頃の二回に金一〇万円宛合計金二〇万円を利息月二分弁済期同年一二月三〇日の約で貸与し、借用証書を受取り、昭和三三年八月分迄の利息の支払があつたが、昭和三四年三月二〇日頃右証書を返還し、之と引換に受取つたのが誓約書と題する書面(甲第一号証)であり、同号証の本文はAが自宅で書いて控訴人方に持参して捺印を受けたもので、控訴人の記名は、その内妻Bが記入したものであるという。之に対し当審証人Bは右記名の事実を否定し、又当審における控訴人本人尋問においては、右A外一名と共に、山の立木を買い、それを伐採して売る事業を行い、その資金はAが農業組合信用組合から借り、昭和三二年二月中に金二五万円と一五万円を受取り、山林買受の費用に使用したことはあるが、之は単なる貸金ではなく、それ以外に借受けた事実は無く、右誓約書差入れの事実もないと供述する。
ところで、右甲第一号証の成立に付ては、控訴人は確定日附の部分のみ成立を認め、その余の成立を否認すると共に、同号証中控訴人名下の印影及び収入印紙の消印の印影(共に円型で四文字の該印あるもの)は、いずれもその左端の文字の顕出の無い空白部分が全く空白のままであつて、何等の点その他の影の顕出が認められないのに反し、印鑑証明書(乙第一号証)並びに本件記録編綴の控訴状及び当審における控訴人本人尋問の宣誓書に夫々押捺されている前同型の印影の左端空白部分には、中央より稍下寄りに一個の点が顕出されているので、右甲第一号証の印影は自己の印を押捺したものではないと争つている。併しながら、成立に争のない甲第四号証(被控訴人に送達された本件控訴状副本)を検すると、その第一葉と第二葉との間の契印には、之亦右の点が判然と顕出されているに反し、末尾の控訴人名下の印影は鮮明に押捺されているに拘らず、右の点は全く顕出されていない。かような一通の副本の二カ所に捺印する際に、控訴人がことさら別個の印鑑を使用して押捺したとは到底考えられないのであつて、同副本の契印と末尾の名下の印影とはもとより同一の印鑑を以て押捺されたものと見るのが相当であり、而してこのように控訴人が成立を認める書面に押捺された同人の同一形状の印影中にも、点の顕出のあるものとないものとが存在する事実から考えると、前記甲第一号証の各印影に点の顕出がないことを根拠に、之を自己の印鑑による捺印でないと争う控訴人の主張は採用することはできず、ひいては当審における控訴人本人の供述及び証人Bの証言中夫々前掲の部分は信を措き難いのであつて、結局原審及び当審証人Aの前示証言により控訴人主張の貸借の成立を認定するのが相当である。又誓約書(甲第一号証)の文面は頗る不明確であるが、金二〇万円を被控訴人から借用していること、及びその弁済期日を昭和三四年一二月三〇日とする趣旨であることは之を読取ることができ、従つて之により弁済期日の変更があつたものと認むべきである。
而して右貸金二〇万円に対する昭和三三年九月一日以降の利息の支払のあつたことは何等の立証がないから、控訴人に対し右元金及び之に対する同日以降完済迄約定利率を利息制限法の範囲内に減縮した年一割八分の利息損害金の支払を求める本訴請求は全部正当として認容すべきである。